東京高等裁判所 昭和32年(ラ)573号 決定
本件抗告理由の要旨は、実用新案法第七条に基く先用権は、原決定のいうように、いわゆる不作為債権に属するものであつて、これに関する訴は、民事訴訟法第五条により、義務履行地の裁判所に提起し得るものであるが、本件実施権の如く法律の規定に基くものは、性質上義務履行地に限定なきものと認むべきを以て、管轄を定むる標準に関する限り、民法第四百八十四条に則り、債権者の現時の住所すなわち抗告人本店の所在地を以て義務履行地と認めるを相当とすべきもので、本訴の裁判籍は東京地方裁判所に在るものと思料するというのである。
しかしながら抗告人が本訴において確認を求める実用新案法第七条所定の実施権は、実用新案権の発生にもかかわらず、実用新案権者は、実施権者が所定の要件を具備してなす、実用新案権の内容を実現する行為に対して、実用新案権の効力を主張することができないという、不作為の義務を内容とする権利であつて、不作為義務の履行地は、義務者の住所地にあるものと解するを相当とする。
してみれば、本件実施権についての義務履行地は、実用新案権者である相手方の住所地にあるものといわなければならない。抗告人は、本件実施権のように法律の規定に基くものは、性質上義務履行地と限定のないものと認むべきであるから、管轄を定める標準に関する限り、民法第四百八十四条に則り、債権者の現時の住所地を以て、義務履行地であるとなすべきであると主張するが、同条の規定は、履行地が、当事者の意思表示、法律の規定又は給付の性質によつて定まらない場合の補充的の規定であつて、不作為義務は、給付の性質上、前述のように、義務者の住所地にあるものと解せれるから、右の主張はこれを採用しない。
以上の理由により、本訴を相手方の住所地を管轄する裁判所である前橋地方裁判所太田支部へ移送すべきものとなした原決定は相当である。